一般の野菜の栽培では畜糞堆肥か化学肥料により10アール(約300坪)あたり25kgほどの窒素分を入れるようです。これは窒素分が1%の牛フン堆肥だと2.5tも入れることになります。
なぜこんなにも入れないといけないのでしょうか。
そもそも畑に投入した肥料がすべて野菜に吸収されるわけではありません。
大気中にガスとして逃げてしまったり、雨とともに川に流れていってしまったりもしますし(環境汚染です)、野菜が吸い切れずに土壌中に残ってしまったりするのです。
その土壌に残った窒素分は腐敗菌(主に細菌)のエサとなりやすく、植物の病気を引き起こしやすくなります。また、過剰な窒素分は野菜に蓄積し、野菜の中の糖分を無駄に消費してしまい、その野菜は一般的に苦く、食味が悪い上に、腐りやすいものとなってしまいます。
窒素分の過剰な腐敗菌優勢な土壌(腐敗型土壌)で育った野菜は苦味やエグみ、アクがありますが、それは人間の体にとって害となる物質を食べないように舌が警告してくれているのです。また、腐敗型土壌で育った野菜は虫食いが多いのですが、虫も窒素分が大好物なのでしょう。。
それとは逆に、窒素肥料ではなく、発酵菌たちのエサとなる炭素資材(雑草、作物残渣、緑肥、剪定チップ、廃菌床など)を入れた土壌は発酵菌優勢の土壌(発酵型土壌)となります。炭素化合物(デンプン)をこうじ菌が分解し、糖をつくり、それを餌にさらに別な発酵菌が増えて、発酵菌が病原菌を抑えたり、また菌の仲間には空気中の窒素を捕まえて野菜に供給するものもいるので、無理に窒素肥料を与えなくても発酵型土壌では野菜は元気に育つのです。
そして発酵型土壌でできる野菜は野菜本来の素朴でさわやかな味となります。発酵とは人間にとって体にいい状態に物質を変化させる現象なのです。ヨーグルトやチーズ、みそ、納豆など発酵食品を食べると健康になりますよね。それと同じです。
発酵型土壌で育った野菜は硝酸態窒素が少なく、善玉菌の働きによる抗酸化力で虫を寄せ付けないため、農薬を使用する必要がなく、また大根の辛みや春菊やホウレンソウなどのクセの強い味が和らぎます。さらに、煮るとすぐにほっこり柔らかに煮えます。これも野菜が虫から身を守るために表皮を硬くする必要がないからです。
こういった腐敗しにくい本物の野菜を食べていると、腸内環境が改善し、アレルギーや細胞の癌化を防ぐ効果も期待できますし、化学肥料と農薬で作られた見せかけだけの腐敗しやすい野菜を食べると、苦みやエグみが気になって食べたくなくなってきます。
子どもが野菜ぎらいなのは大人より舌が敏感なために、化学肥料と農薬でつくられた腐敗型の野菜を本能的に拒絶しているのでしょう。
無機態窒素では、アミノ酸を経てタンパク質になるまでに光合成産物である糖類を多量に消費してしまいます。(過剰な窒素肥料の施肥はかえって甘みを損ないます)
一方、プロリン、アルギニン酸等のアミノ酸の形で吸収された有機態窒素は糖類の消費が少なく、光合成産物の収支は著しく増加し、野菜の旨みが増え、収量もあがります。
なかやま農場では、アミノ酸窒素を吸収すると言われるレタス栽培などにはアミノ酸の豊富な発酵ボカシ肥や発酵鶏糞を使って、レタスの旨みアップを図っています。またトマトにはアミノ酸豊富な魚由来の液肥を追肥して旨みを出しています。
自然農法や有機農業において、肥沃で病害虫の少ない自然林の状態をいかに農地で再現するかに、多くの努力をかけてきました。その結果、土壌の小動物や微生物といった生態系を形作る重要性がわかったのですが、自然林の状態にするためには完熟堆肥などの有機物を多量に、根気強く長期にわたって入れ続けなければなりません。
これは、自然状態では常に腐敗菌が優先するため、生の有機物を施用した場合、腐敗によって生じる熱や有害なメタンガスなどによって、根の発達が阻害され、病害を多発してしまうことに原因があります。
そのために有機農法では堆肥を完熟させて施用するのですが、完熟堆肥には腐植などのそれ以上分解困難な低カロリーの有機物しか残っていないため、微生物を増やし、肥沃な土壌にするには大量の施肥が必要となり無駄が多いのです。
また、自然農法のように肥料の代わりに雑草を積極的に生やし、それを刈り取り、表層に敷くことを繰り返すことで、自然林の状態に持っていく方法は、草だけでやると5年以上という長い年月が必要のようです。
どちらの農法とも、多大な労力と時間がかかってしまい、これでは経済的に一般農家が導入するのは難しく、付加価値をつけて高値で売らなければ採算が取れません。富裕層向けだけに農作物を作るのではなく、安全で美味しい農作物を適正な価格で消費者に届けることこそ農家の本分だと思います。
病害虫を抑える微生物として、放線菌が知られていますが、有機物の分解過程のカビによる初期の急激な分解を経過した土壌に増殖している菌であり、原理的に完熟堆肥を施肥すれば放線菌が畑に増えることとなります。完熟堆肥を施用しただけでは、栄養が不足するので、放線菌やその他の病害虫を抑える細菌が増殖しやすいナタネ粕や、米ぬか、魚粉等の有機肥料との併用で土壌が浄菌土壌となっていきます。
自然農法や有機農業では生の有機物を土に入れてはダメ、完熟堆肥にしないと!とよく言われますが、これは生の有機物が土の中で腐敗してしまうからです。しかし、土壌の状態を発酵合成型の土壌にすると、生の有機物も腐敗させることなく植物が利用できると考えられます。また、同時に土壌の団粒形成も促進され、土壌が軟らかく、透水性、保水性も改善され、根張りもよくなる効果が期待されます。
通常、悪臭が発生したら腐敗菌、芳香を発したら発酵菌が優先したとみなせます。一般的に知られているボカシ肥は発酵菌の産物の代表例です。自然状態では腐敗菌が圧倒的多数となるのですが、腐敗菌を加えて、発酵菌が優先している状態でも、腐敗菌の飛び込みが常に起こっており、いつ腐敗菌に逆転されるかわかりません。そこで、鍵となるのが、合成型の微生物です。
光合成細菌は合成型の微生物であり、腐敗菌が作り出す有害な物質を取り込んで増殖する力があります。また、産生する物質に酸素を付加した形で放出し、この酸素が腐敗菌の増殖を抑える作用をすると考えられています。
つまり、発酵型の微生物と合成型の微生物の多くいる発酵合成型土壌では、有機物が発酵により可溶化し、エネルギー損失も少なく、窒素もガス化することなく多様なアミノ酸に転化される仕組みが成り立つのです。
自然界では常に腐敗の系が優占する状態にあるが、分解が進めば浄菌(放線菌の多い状態)のレベルには到達する。完熟堆肥を用いた有機農業はこのレベルであり、無農薬で農作物は作れるが。分解しきった燃えカスを施肥するため、効率が悪く、経済的に成り立たないのは当然といえる。
そこで、腐敗菌を抑えた発酵菌、合成菌、浄化菌のバランスの取れた発酵合成型土壌を作り上げることができれば、比較的短期間に無農薬栽培の可能な状態に持っていける。
一般的に土壌には1g中1億以上もの微生物がいると言われており、そのため人工的に培養した微生物を土壌に施用しても、既存の微生物に負けると思われがちだが、浄菌、発酵、合成機能をもつ有用微生物(放線菌、光合成細菌、酵母、糸状菌など)を数多く混成し施用し、保護育成すれば、土壌の微生物相は比較的容易に変えることが可能である。
無農薬栽培で最もネックとなるのが雑草対策である。
除草剤を使用しない雑草対策として、
土の中に発酵力の強い微生物がいると、耕運によって傷ついた草はその傷口から発酵し枯れるのだ。特に土壌水分が多い条件で効果抜群。
土中の休眠種子も発酵微生物の分泌物で休眠が打破され、一斉に発芽するため、頃合いを見て再度耕運すれば、雑草を減らすことができる。